研究アイデアは、思いついた瞬間よりも、会社に説明しようとした瞬間に本当の強さがわかります。
一人ブレストをしているときは、アイデアはそれなりに出てきます。
「この技術を別用途に使えないか」
「この顧客課題と組み合わせたら面白いのではないか」
「将来、製品やサービスにつながるかもしれない」
メモが増えていくと、研究テーマの原石が机の上に並んでいくような感覚があります。
しかし、いざ上司や事業部に説明しようとすると、急に空気が変わります。
「それは、誰の課題なの?」
「会社としてやる意味は?」
「どのくらいの価値があるの?」
「いつ成果が見えるの?」
その瞬間、自分では面白いと思っていたアイデアが、まだ研究テーマ候補としては弱かったことに気づきます。
企業研究では、面白いアイデアがそのまま研究テーマになるわけではありません。
顧客価値、会社としてやる理由、時間軸とリターンを踏まえて、提案に耐える形へ絞り込む必要があります。
この記事では、一人ブレスト後に出てきた研究アイデアを、会社の価値につながる研究テーマ候補へ整理する考え方を解説します。
関連記事:
【企業研究者】研究テーマが思いつかないときのアイデア出し|一人ブレストで発想を広げる方法|面白さを会社の価値に変える構想力Ⅳ| 企業研究者の価値創出スキル#5
研究アイデアは、出すより絞る方が難しい
研究アイデアは、出すよりも絞る方が難しいです。
アイデアを出す段階では、自由に考えればよいからです。
少し極端でもよいし、すぐには実現できなくてもよい。
むしろ、最初から制約を考えすぎると、発想は小さくなります。
しかし、絞り込む段階では違います。
企業研究では、「面白そうですね」だけでは前に進みません。
会社として取り組む価値があるかを問われます。
こういうアイデアは少なくありません。
私自身も、頭の中では「これは面白い」と思ったものの、顧客価値を説明しようとすると急に弱くなるアイデアがありました。
一方で、技術的には難しそうでも、顧客の困りごとや会社としてやる理由が明確なものは、研究テーマ候補として残す価値がありました。
研究テーマ候補を絞るとは、アイデアを減らす作業ではありません。
会社の価値につながる可能性があるものを残す作業です。
一方向の考えでは、研究テーマは偏る
研究テーマ候補を考えるとき、一方向の考えだけに頼ると危険です。
自分一人で考えていると、自分の専門、自分の成功体験、自分の興味に引っ張られます。
研究者だけで考えれば、技術的な面白さに寄りやすくなります。
事業部だけで考えれば、短期的な実用性に寄りやすくなります。
大学の先生は、学術的な新規性を重視することが多いです。
どの視点も大切です。
ただし、どれか一つだけに寄ると、研究テーマとしてのバランスを失います。
一方向からの考えは、必ず偏ります。
考え方が偏ると、研究は行き詰まりやすくなります。
だから、研究テーマを考える初期段階では、複数の視点からアイデアを見る必要があります。
最初に見るべき判断軸は、顧客価値である
研究テーマ候補を絞るとき、最初に見るべきなのは顧客価値です。
顧客価値がなければ、企業研究として取り組む意味が弱いからです。
技術的に面白くても、誰の何を解決するのかわからなければ、会社の価値にはつながりにくくなります。
見るべき点は、顧客の困りごとが大きいか。
困っている顧客は多いか。
解決できたとき、売上や利益につながる可能性があるか。
会社として取り組む理由があるかです。
| 判断軸 | 見ること | 弱い状態 |
|---|---|---|
| 顧客価値 | 誰の困りごとを解決するか | 誰の課題かわからない |
| 市場性 | 顧客数や市場規模があるか | 困っている人が少ない |
| 事業インパクト | 売上・利益につながるか | リターンが小さい |
| 自社でやる理由 | 技術や事業とつながるか | 他社でもよいテーマ |
企業研究では、「面白い」で止めてはいけません。
誰にとって、どれだけ価値があるのか。
それを考えて初めて、研究アイデアは研究テーマ候補に近づきます。
関連記事:
【企業研究者】研究テーマの決め方|面白さを会社の価値に変える構想力| 企業研究者の価値創出スキル#2
時間軸とリターンのバランスを見る
顧客価値があっても、時間軸とリターンのバランスが悪ければ、企業研究としては弱くなります。
企業研究では、時間、人員、予算が限られています。
長期テーマにも意味はあります。
しかし、長期でリターンが小さいテーマは、会社として進めにくいです。
たとえば、5年かけて得られるリターンが100万円程度なら、企業研究としては弱いでしょう。
研究者としては面白くても、会社の投資としては説明しにくいからです。
一方で、時間軸が長くても、顧客価値や市場インパクトが大きいなら、取り組む意義はあります。
これらは分けて考える必要があります。
価値が大きいなら、難易度だけで捨てない
ニーズが強く、会社としてやる理由が明確なら、技術的な難易度だけで捨てるべきではありません。
難しいからやめる、という判断だけでは、大きな研究テーマは生まれません。
むしろ、解決が難しい課題に対して、どう解決手段を考えるかが研究者の腕の見せ所です。
顧客の困りごとが大きい。
会社として取り組む意義もある。
解決できれば事業価値も大きい。
そういうテーマであれば、現時点で解決方法が完全に見えていなくても、研究テーマ候補として残す価値があります。
ただし、何も見えないまま突っ込むのは危険です。大きなテーマでも、最初に何を確かめるかは必要です。
難しいテーマを小さく分解し、検証できる形にする。
そこから研究は始まります。
多様な意見を聞き、テーマ候補の土台を強くする
自分の中で「これはいけるかもしれない」と思うアイデアがあれば、周囲にぶつけてみるべきです。
多様な意見を聞く目的は、アイデアを増やすことではありません。
自分のアイデアが、どの角度から見ても耐えられるかを確認することです。
ここで大切なのは、正解を聞きに行くのではないということです。
「これは進めるべきですか?」と答えを預けるのではなく、
「このアイデアは、別の立場から見るとどう見えるか」
を確かめに行く感覚です。
「それは面白いですね」と言われるだけでも、先に進む材料になる場合があります。
ただし、それだけで進めるのは危険です。
逆に、少し否定されたからといって、すぐ捨てる必要もありません。
様々な意見を聞き、それらを自分の中で咀嚼する。
多様な視点を通すことで、アイデアは単なる思いつきから、提案に耐える研究テーマ候補に近づいていきます。
人の意見は参考にする。しかし、最後は自分で考える
周囲の意見は重要ですが、一人の意見に左右されすぎてはいけません。
この章で大切なのは、判断を他人に委ねないことです。
多様な意見を聞くことと、誰かの意見どおりに進めることは違います。
相手の立場によって、見ているものが違います。
大学の先生は学術性を見る。
事業部は顧客価値を見る。
開発部門は実装可能性を見る。
同僚研究者は技術的な筋の良さを見る。
それぞれ正しい部分があります。
しかし、それだけで全体を判断することはできません。
否定的な意見を受けても、すぐに捨てる必要はありません。
肯定的な意見を受けても、すぐに進める必要はありません。
複数人の反応を見て、共通点や懸念点を考えることが大切です。
意見を謙虚に受け止めることと、その意見に従うことは異なります。
多様な意見を聞く目的は、判断を他人に委ねることではありません。
自分の判断の精度を上げることです。
企業研究のテーマは、自分で決めるものではなく提案するものである
企業の中では、研究テーマは自分一人で決められるものではありません。
基本的には、提案するものです。
この章で大切なのは、研究テーマ候補を社内で通る形に整えることです。
自分の中で納得しているだけでは不十分です。
会社の方針、事業部の関心、予算、人員、開発ロードマップなど、企業研究には多くの要素が関わります。
どれだけ自分が面白いと思っても、会社として取り組む理由を説明できなければ、テーマとして通りにくくなります。
提案で見られるのは、アイデアの新しさだけではありません。
そのアイデアが、顧客・事業・技術・時間軸の複数の視点で考えられているかです。
提案時には、顧客価値、市場性、自社でやる理由、時間軸とリターン、技術的な見通しが見られます。
さらに、多様な考え方を踏まえているかも見られます。
提案前に複数の視点を入れておくと、想定される反論にも答えやすくなります。
自分の思いだけで作ったテーマは、少し突っ込まれただけで崩れやすいです。
逆に、多様な視点を通したテーマは、土台が強くなります。
土台が強いテーマは、提案も通りやすくなります。
研究テーマ候補を絞るためのチェックリスト
研究テーマ候補を絞るときは、最後に次の問いで確認するとよいです。
✅ そのテーマは、誰の課題を解決するのか
✅ 顧客の困りごとは大きいか
✅ 顧客数や市場規模はあるか
✅ 解決できたとき、売上や利益につながる可能性はあるか
✅ 自社として取り組む理由はあるか
✅ 時間軸とリターンは見合っているか
✅ 難易度だけで捨てようとしていないか
✅ 複数の立場の人から意見を聞いたか
✅ その意見を自分の中で咀嚼したか
✅ 最初に何を検証するか見えているか
この問いに答えられるほど、研究テーマ候補の土台は強くなります。
まとめ:研究テーマ候補は、多様な視点で強くする
一人ブレストで出したアイデアが、すべて研究テーマになるわけではありません。
企業研究では、顧客価値を中心に考える必要があります。
顧客の困りごとが大きいか。
市場性はあるか。
リターンはあるか。
会社としてやる理由はあるか。
ここを見ずに進めると、研究は途中で苦しくなります。
また、一方向の考えだけではテーマは偏ります。
偏ったテーマは、提案時にも研究途中にも弱くなりやすいです。
研究テーマ候補を絞るとは、単にアイデアを減らすことではありません。
多様な視点を通して、会社に提案できるだけの強い土台を作ることです。
次は、そのテーマ候補を研究仮説に変え、小さく検証する段階に進みます。
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