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【企業研究者】研究テーマの継続・保留の判断基準|追加投資を見極める3つの視点企業|研究者の価値創出スキル#8

研究者には、厄介な性分があります。
わからないことがあると、どうしても知りたくなる。

私はある研究で不思議な現象に出会いました。
偶然かと思いましたが、再現性がある。
ところが、なぜその現象が起きるのか、理由がわかりません。
予備実験をしても、結果はすっきりしない。
こうなると、研究者としては面白くなってきます。
なぜ、こんな現象が起きるのか。
もう少し調べれば、何かがわかるかもしれない。

しかし、私はこの研究を保留しました。
面白くなかったからではありません。
むしろ、その逆です。

科学的に面白い研究と、会社として続けるべき研究は、必ずしも同じではないからです。

研究テーマを続けるか、追加検証するか、いったん保留するか。

この記事では、私自身の経験をもとに、
企業研究者が研究テーマの継続・保留を判断する3つの基準と、上司への説明方法を紹介します。

目次

研究テーマは「ここまでやったから」で続けてはいけない

研究テーマの継続を考えるとき、私が大切だと思うのは、これまでの成果だけで判断しないことです。

研究を続けていると、どうしても気持ちが入ります。
ここまで時間をかけたのだから、もう少し続けたい。
面白い結果も出た。
あと一歩で何かがわかるかもしれない。

その気持ちはよくわかります。
しかし、これまで費やした時間や費用は戻ってきません。

考えるべきなのは、これから投入する時間や費用に、どれだけの価値があるかです。

もちろん、短期的な利益だけで判断する必要はありません。
将来の事業につながる基盤研究にも投資する意味があります。

ただし、

なぜ会社としてその研究を続けるのか。
その理由は説明できなければなりません。

研究者として面白がることと、企業として研究投資を判断すること。
この2つを分けて考える必要があるのです。

再現性はある。それでも原因解明を諦めた理由

冒頭で紹介した研究の話に戻ります。

ある研究テーマで、特殊な現象が観察されました。
再現性もあり、科学的には非常に興味深いものでした。
私は原因を探ろうと予備実験を行いました。
しかし、結果は明確ではありません。
正直、気になって仕方がありませんでした。
もう少し調べれば原因がわかるのではないか。
新しい発見につながるかもしれない。
それに、ここまで取り組んだ研究です。
簡単には手放したくありません。

ところが、本格的に原因を解明しようとすると、相当な時間と費用、労力が必要でした。
自社の技術やリソースだけでは難しく、共同研究なども必要になると考えていました。

そこで、一つの問いに行き着きました。

「仮に原因がわかったとして、それは会社の何に役立つのだろう?」

答えが出ませんでした。
原因解明の見通しは不透明。
追加の研究投資は必要。
そして、仮に解明できたとしても、事業への貢献が見えない。

研究者としては、まだ知りたい。
でも、会社としてそこまで投資する理由が見つからない。
私は、この研究をペンディングとしました。

もちろん、未練はありました。
しかし、原因がわからないから諦めたのではありません。

原因を解明することに、会社として追加投資する意義を見いだせなかったからです。

研究者としての好奇心と、企業研究者としての判断。
両者が一致しないこともあるのです。

研究テーマの継続・保留を判断する3つの基準

では、研究テーマを進めるかどうか、何を基準に判断すればよいのでしょうか。
私は、次の3つを重視しています。

① 会社として研究を続ける価値があるか

最初に考えるのは、会社として取り組む意義です。

顧客課題の解決につながるか。
自社の技術的な強みを生かせるか。
将来の事業に貢献できるか。

すぐに製品化できなくても構いません。
しかし、研究が成功した先に、会社として得られる価値が見えているかは重要です。

研究テーマを構想する段階での考え方は、以下の記事でも紹介しています。

関連記事:

② 技術的な根拠や実現可能性があるか

次に、実験結果を冷静に見ます。

再現性はあるか。
どこまで確認できているか。
何が不明なのか。

ここで重要なのは、原因をすべて解明することではありません。

次の段階に進めるだけの根拠があるかです。

私が経験した特殊な現象も、再現性はありました。
しかし、原因解明には大きな技術的な壁がありました。

面白いデータが出たことと、その先の研究を進められることは別なのです。

③ 追加の時間・費用・労力に見合うか

最後に、これから必要になる研究投資を考えます。

あとどのくらい時間がかかるのか。
どのような設備や技術が必要なのか。
共同研究まで必要なのか。

そして、それだけの投資によって何が得られるのか。

これまでに費やした時間ではなく、これから必要になる投資で判断する。

これが重要です。
もちろん、数字や実験結果だけですべてを判断できるわけではありません。
研究者としての経験や直感も大切です。
ただし、「何となくいけそう」だけでは、会社の研究投資を正当化できません。

なぜ可能性を感じるのか。次に何を確認すれば判断が変わるのか。
直感を根拠のある提案につなげることが必要です。

継続・追加検証・保留をどう見極めるか

研究テーマの判断は、進めるか、やめるかの二択ではありません。
私は「継続」「追加検証」「保留」の3つに整理すると考えやすいと思います。

判断会社への価値技術的根拠追加投資
継続価値や将来の可能性が見える次に進む根拠がある妥当と説明できる
追加検証期待できる判断に必要な情報が不足追加検証で判断が前進する
保留現時点では価値が不明確技術的な壁が大きい場合もある正当化する理由が弱い

この表は、機械的に結論を出すためのものではありません。
研究段階やテーマの性質に応じて、各項目の重要度は変わります。

特に考えたいのは、追加検証によって、次の判断が変わるのかという点です。

単に「もう少し実験したい」では弱い。
新しいデータによって、継続する理由が明確になるのか。
それとも、保留すべきと判断できるのか。

そこまで考える必要があります。

一方、実験が成功していても、事業への貢献が見えなければ保留する場合があります。
逆に、結果が十分でなくても、顧客ニーズが明確で、突破口が見えていれば追加検証する意義があります。

なお、ここでいう「保留」とは、将来の再検討を前提に、いったん研究を止めることです。
永久に取り組まないと決める「中止」とは区別しています。

研究テーマ候補を小さく試す方法については、前回の記事で詳しく紹介しています。

関連記事:

上司には実験結果だけでなく、次の判断を提案する

研究テーマを続けるかどうかは、自分一人で完結する話ではありません。
上司や関係者に、判断の根拠を説明する必要があります。

その際、私は次の3点が重要だと考えています。

続けることで何が得られるのか
続けるために何が必要なのか
続けない場合、どのような可能性を残すのか

  • 続けるために何が必要なのか

例えば、継続を提案するなら、

「再現性のある結果が得られ、顧客ニーズとの接点も確認できています。自社技術を生かせる可能性があるため、次の段階に進めたいと考えています」

保留を提案するなら、

「原因解明には追加のリソースが必要ですが、現時点では事業への貢献が明確ではありません。今回は保留とし、関連技術や事業環境が変わった段階で再検討したいと考えています」

大切なのは、実験結果を報告して終わらないことです。

その結果を踏まえ、会社として次に何をすべきか。

そこまで提案するのが企業研究者の仕事だと思います。

保留した研究テーマは、将来のために残しておく

私にとって「保留」は、研究を完全に捨てることではありません。
今は解明できなくても、将来、新しい技術が使えるかもしれません。
今は事業との接点が薄くても、別の研究テーマと組み合わせれば、新しい可能性が生まれるかもしれません。

だから、私は保留したテーマもストックすることを大切にしています。
残しておきたいのは、実験結果だけではありません。

なぜ保留したのか
何が足りなかったのか
何が変われば再検討できるのか

そこまで整理しておけば、将来、改めて判断する材料になります。

研究者は、つい目の前の面白い現象を追いかけたくなります。
それ自体は悪いことではありません。
しかし、すべてを今、解明する必要はないのです。

今やらないことと、将来もやらないことは違うのです。

まとめ|研究を進める勇気と、保留する判断力

企業研究者には、研究を深掘りする力だけでなく、どこで立ち止まるかを判断する力も必要です。
研究テーマを継続するかどうかは、会社としての価値、技術的な根拠、追加投資の妥当性で考える。

そして、進める理由も、保留する理由も、自分の言葉で説明できるようにする。

科学的に面白い現象を、必ずしも最後まで追究する必要はありません。
もちろん、研究者としての好奇心は大切です。むしろ、失ってはいけないものだと思います。
ただし、その好奇心に、会社の時間とお金をどこまで使うのか。
それは別の判断です。

研究を進める勇気と、いったん保留する判断力。
その両方が、企業研究者には必要なのです。

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この記事を書いた人

農学博士(論文博士)、気象予報士。

修士課程修了後、研究職への就職に失敗。
研究補助の派遣社員として研究の世界へ戻り、
異分野の企業研究所へ転職。

約6年かけて論文博士を取得。
学位取得後も研究を継続し、実績は以下。

 ✅ 原著論文15報(筆頭著者10報)
 ✅ 学術著書9報(筆頭著者8報)
 ✅ 国内外で計6件の受賞歴あり
 ✅ 国内外学会発表合計34
 ✅ 特許出願合計22件

現在は研究開発から少し離れた部署でマネジメントに従事

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