はじめに|論文ゼロでも社会人博士を目指せるのか
社会人として研究開発に携わっていると、博士号取得を考える瞬間があるかもしれません。
しかし同時に、
「論文がまだ1本もない」
「学会発表の経験も少ない」
「今の研究成果で博士号取得につながるのか分からない」
「何から始めればよいのか分からない」
と不安になる人も多いと思います。
私自身も、28歳で企業研究員として研究職に転職した時、査読付き論文はゼロでした。しかも大学院時代とは異なる分野での再スタートです。
それでも私は、論文ゼロの時点から博士号取得を意識していました。
結論から言えば、論文ゼロは博士号取得を諦める理由にはなりません。ただし、論文ゼロのまま博士号を取得できるわけでもありません。
必要なのは、目の前の研究成果を「外に出せる形」に整えていくことです。
この記事では、論文ゼロだった私が、どのように研究成果を学会発表へつなげ、そこから査読付き論文へ発展させていったのかをお話しします。
社会人博士に必要なのは「外に出せる研究成果」
社会人博士に必要なのは、単なる実験データではなく、外に出して説明できる研究成果です。
実験データはもちろん重要です。
しかし、データがあるだけでは博士号取得にはつながりません。
その結果にどのような新規性があるのか。
先行研究と何が違うのか。
学術的にどのような意味があるのか。
そこまで説明できて初めて、研究成果として積み上がっていきます。
私の場合も、最初から論文を書けたわけではありません。
まずは実験結果をまとめ、学会で発表できる形にすることから始まりました。
そして、その学会発表を土台にして、査読付き論文へつなげていきました。
社会人博士を目指すなら、最初に意識すべきなのは「論文を書くこと」よりも、「発表できる研究成果を作ること」だと思います。
論文ゼロの企業研究者が最初にぶつかった壁
論文ゼロから社会人博士を目指す時、最初に苦しいのは「成果が見えない時期」です。
私も最初の1〜2年は、大きな成果が出たとは言えませんでした。
実験はしていました。
データも少しずつ出ていました。
しかし、それが学会発表や論文に直結する状態ではありませんでした。
研究はしている。
でも、成果になっているのか分からない。
論文になるのかも分からない。
この時期は、かなり不安でした。
それでも、目の前の研究を続けるしかありませんでした。
社会人博士を目指す場合、最初から完成された研究成果がある人ばかりではありません。
むしろ多くの場合、小さな実験結果を積み上げながら、後から研究の形が見えてくるのだと思います。
最初の転機は、文献に出てこない新規な発見だった
研究成果を外に出すうえで重要なのは、新規性です。
私にとって最初の転機は、文献調査をしても出てこない新規な発見があったことでした。
研究では、単に結果が出ればよいわけではありません。
その結果が、これまで報告されているものと何が違うのか。
既存の知見に対して、どのような新しさがあるのか。
ここを確認する必要があります。
私の場合、文献を調べても同じような報告が見つからない結果がありました。
その時に初めて、
「これは外に出せる成果かもしれない」
と感じました。
社会人博士を目指す企業研究者にとって、文献調査は単なる勉強ではありません。
自分の業務で得られた結果が、学術的な研究成果になるかどうかを確認する作業でもあります。
最初から論文ではなく、まず学会発表を目指した
論文ゼロの状態で、いきなり査読付き論文を書くのは簡単ではありません。
私が最初に目指したのは、論文ではなく学会発表でした。
最初の学会発表は入社3年目でした。
位置づけとしては、論文にする前段階です。
上司から学会発表を勧められたことも、大きなきっかけでした。
自分だけでは、まだ外に出せる成果だと判断できなかったかもしれません。
しかし、上司や周囲の後押しがあり、研究成果を学会発表としてまとめることになりました。
この段階では、大学の先生や共同研究先も関わっていました。
研究成果を外に出すには、自分一人で抱え込むより、周囲の視点を入れることが重要だと感じました。
学会発表を目指すと、研究背景を整理します。
データを図表にします。
結果の意味を考えます。
発表要旨を書きます。
限られた時間で研究内容を説明できるようにします。
この作業が、後の論文執筆につながりました。
学会発表は論文執筆の準備になる
学会発表は、論文を書くための重要な準備になります。
なぜなら、学会発表では研究成果を一つのストーリーとして整理する必要があるからです。
なぜこの研究をしたのか。
どのような方法で調べたのか。
どのような結果が得られたのか。
その結果にはどのような意味があるのか。
この流れは、そのまま論文の骨格になります。
私の最初の査読付き論文も、学会発表をベースにしたものでした。
もちろん、学会発表をすれば自動的に論文になるわけではありません。
論文にする時には、英語で非常に苦労しました。
論文のストーリー構築にも悩みました。
どの順番で説明すればよいのか。
何を主張の中心に置くべきか。
結果からどこまで考察してよいのか。
何度も考える必要がありました。
それでも、学会発表で一度研究成果をまとめていたことは大きかったです。
論文ゼロの人が最初にやるべきことは、いきなり完成度の高い論文を書くことではありません。
まずは、発表できる成果として研究を整理することです。
業務成果を学術成果として整理する視点が必要
社会人博士では、業務で得られた成果を、学術成果として説明できる形に整える視点が重要です。
会社の仕事で得られた結果は、そのままでは社内の成果で終わってしまいます。
もちろん、それ自体にも大きな価値があります。
しかし、博士号取得につなげるためには、その成果を学術的に説明できる形へ変換する必要があります。
私の場合も、業務の中で得られた結果を、社内報告だけで終わらせないように意識していました。
会社では、その成果がどんな未来につながるのかを説明します。
事業にどう貢献するのか。
技術としてどのような可能性があるのか。
将来的にどんな価値を生むのか。
一方で、学術成果として説明する時には、別の視点が必要です。
先行研究と何が違うのか。
どこに新規性があるのか。
なぜその結果が重要なのか。
どのように一般化できるのか。
同じ結果であっても、会社で説明する時と、論文として説明する時では、見せ方が変わります。
社会人博士に必要なのは、日々の業務成果を、学術的に説明できる形へ変換する力だと思います。
研究成果を積み上げるために意識したこと
研究成果を積み上げるために、私は最初から1年1報を意識していました。
もちろん、最初から計画通りに論文が出たわけではありません。
最初の1〜2年は大きな成果もありませんでした。
それでも、研究成果を外に出す意識は持っていました。
データは、ため込むだけでは成果になりません。
図表にする。
発表資料にする。
要旨にする。
論文のストーリーとして整理する。
こうした作業を通じて、初めて成果として形になります。
論文ゼロの企業研究者が最初にやるべきことを一つ挙げるなら、私は
「研究成果を論文のストーリーとして整理すること」
だと思います。
実験結果があるだけでは論文になりません。
背景があり、目的があり、結果があり、考察があり、結論がある。
その流れの中で、自分の研究成果がどのような意味を持つのかを説明する必要があります。
論文ゼロでも社会人博士を目指せるのか
論文ゼロでも社会人博士を目指すことはできます。
ただし、論文ゼロのまま博士号を取得できるわけではありません。
ここは誤解してはいけないところです。
スタート時点で論文がないことは、博士号取得を諦める理由にはなりません。
私自身も論文ゼロからのスタートでした。
しかし、博士号取得につなげるには、研究成果を外に出す必要があります。
学会発表をする。
査読付き論文を書く。
その成果を博士論文につなげる。
この積み上げは避けて通れません。
私の場合、学位取得には筆頭論文4報以上が必要でした。
最終的には、博士号取得後も含めて筆頭論文10報まで積み上げることになります。
必要な論文数や条件は、大学や研究科によって異なります。
それでも、社会人博士、とくに論文博士を目指す場合、査読付き論文として外に出した研究成果が重要になることは間違いありません。
FAQ|社会人博士と研究成果に関するよくある質問
Q. 論文ゼロでも社会人博士を目指せますか?
はい。スタート時点で論文ゼロでも、社会人博士を目指すことはできます。
ただし、博士号取得までには、学会発表や査読付き論文として研究成果を積み上げる必要があります。
Q. 社会人博士に必要な研究成果とは何ですか?
実験データだけではなく、外に出して説明できる研究成果です。
具体的には、学会発表や査読付き論文につながる成果です。
特に論文博士では、査読付き論文の実績が重要になります。
Q. 最初に目指すべきなのは論文ですか?
最初から論文を目指すより、まずは発表できる研究成果を作る方が現実的です。
学会発表を通じて研究背景やストーリーを整理すると、論文執筆につなげやすくなります。
まとめ|最初の一歩は「発表できる成果」を作ること
論文ゼロは、博士号取得を諦める理由にはなりません。
ただし、社会人博士を目指すなら、目の前の研究成果を外に出せる形に整える必要があります。
まずは文献調査を通じて新規性を確認する。
データを図表にする。
研究成果を論文のストーリーとして整理する。
そして、学会発表できる形にまとめる。
その積み重ねが、査読付き論文につながります。
社会人博士に必要なのは、最初から完成された実績ではありません。
業務成果を学術成果として整理し、外に出せる形に変えていく視点です。
つまり、論文ゼロの段階で必要なのは、論文数ではなく、目の前の成果を「発表できる研究成果」に変える意識です。
論文ゼロからでも、研究成果を一つずつ積み上げていけば、社会人博士への道は少しずつ現実的になります。
次回は、企業に属するからこそ、絶対に意識しないとならない「特許」について解説します。

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